2025年3月30日(日)福岡映画サークル協議会第2回例会作品

―場所:福岡市総合図書館 映像ホール「シネラ」―

 

『ある一生』

― 雄大なアルプスの山とともに生きた「ある男の一生」 ―

 

≪ストーリー≫

1900年頃のオーストリア・アルプス。孤児の少年アンドレアス・エガーは渓谷に住む、遠い親戚クランツシュトッカーの農場にやってきた。しかし農場主にとって、孤児は安価な働き手に過ぎず、虐げられた彼にとっての心の支えは老婆のアーンルだけだった。

彼女が亡くなると、成長したエッガーを引き留めるものは何もなく、農場を出て、日雇い労働者として生計を立てる。その後、渓谷に電気と観光客をもたらすロープウェーの建設作業員になると、最愛の人マリーと出会い、山奥の木造小屋で充実した結婚生活を送り始める。しかし、幸せな時間は長くは続かなかった…。

 

第二次世界大戦が勃発し、エッガーも戦地に召集さえたもののソ連軍の捕虜となり、何年も経ってから、ようやく谷に戻ることができた。そして、時代は過ぎ、観光客であふれた渓谷で、人生の終焉を迎えたエッガーは過去の出来事がフラッシュバックし、障害を共にしたアルプスの後継を眼前に立ち尽くす…。

 

≪プロダクションノート≫

🎬原作の映画化

 映画化は一見簡単そうにみえるが、ハンス・シュタインビッヒラ―監督は、「エッガーは完全に内省的な人物で、ドラマツルギーがまったくない」と、すぐに苦難に直面する。それにもかかわらず、映像化することは監督にとって必然だった。「小説で描かれている内容が、私の山での生活や、キームガウの農家の息子だった実父の人生と結びついていたからです」

 監督は本作について「私たちの人生に不可欠なもの、つまり“愛”と“充実感”についての寓話」と定義し、「忙しい成果重視の現代社会を映す鏡となる作品でもある」とはっきり認め、また映画化に失敗することを「非常に恐れていた」とも述べた。したがって、彼に求められたのは、題材と謙虚な関係を築き、小説のトーンと一致するように努めることだったため、脚本は高く評価されているウルリッヒ・リマーとの共同脚本で進められた。

 

🎬ロケーション

 監督にとって、クリエイティブチ―ムはキャストと同じくらい重要だった。山の四季と80年間という時代をすべて海抜約2500mの東チロル山脈、さらに南チロルとバイエルンでも撮影する必要があったからだ。撮影は222月から計47日間にわたって行われ、冬のシーンでは、機材、カメラ、ランプなどをスノーモービルで谷から山まで運ばなければならなかった。800万ユーロ(約12億)以上という十分な予算はあったものの、それでも慎重に計画して使用する必要があった。「歴史的な作品では、ロケーション設計に多くの予算が費やされる。フェルバータウエルントンネルが建設されるまで、東チロル地域が長い間眠っていたのが私達にとって有利に働き、多くの美しくオリジナルのロケーションを見つけることができた」

 

🎬撮影準備

 本作の映画化を成功させる重要な鍵は、慎重な準備と計画だった。監督は、撮影のアルミン・フランゼンとともに、間取り、雰囲気、ストーリーボードを、250ページものショットリストの束に変換し、チェコのストーリーボーダー、ヤン・ブラジチェックによって、重要な雪崩のシーン、ケーブルカー建設中の事故、エッガーとマリーの散歩など、すべてのシーンが紙に落とし込まれた。

 

「世紀の小説」と称された、世界的ベストセラーを見事に映画化

 原作であるローベルト・ゼーターラーの同名小説(新潮クレスト・ブックス)は、世界40カ国以上で翻訳され160万部以上発行、ブッカー賞最終候補にもなった作品でもある。“正規の小説”、“小さな文学の奇跡”などと評された原作を忠実に、かつ美しい情景と共に視覚的に見事に映画化した本作は、激動の20世紀の中、80年にわたって暴力、戦争、貧困に耐えなければならなかったアンドレアス・エッガーの孤独な苦難の人生を描いている。しかし、そんな名もなき男の人生の中にも幸福な瞬間と大きな愛があり、エッガーは自分の人生を受け入れ、無骨に生き抜いていく。

 

80年の激動の人生を3人の俳優が説得力を持って演じる!

 アンドレアス・エッガーは時代ごとに3人の俳優が演じている。青年期を新人のシュテファン・ゴルスキー、老齢期を性格俳優のアウグスト・ツィナー、幼少期を新人のイヴァン・グスタフィクがそれぞれの年齢で非常に説得力を持って演じた。その他、アンドレアス・ルスト、マリア・ホーフステッター、トーマス・シューベスト、マリアンネ・ゼーゲブレヒトらが脇を固めている。監督は、『ヒランクル』(03)、『アンネの日記』(16)のハンス・シュタインビッヒラー、脚本は、『マーサの幸せレシピ』(01)のウルリッヒ・リマー。

2023年/ドイツ・オーストリア製作/115

監督:ハンス・シュタインビッヒラー

出演:シュテファン・ゴルスキー、アウグスト・ツィルナー、アンドレアス・ルスト他


ハンス・シュタインビッヒラー監督インタビュー

本作の製作経緯

 この1015年の間、貧しいアルプスの農家で育った父のことを映画で描きたいと考えていましたが、「ある一生」と出会って、これだ!」と思いました。非常にユニークな作品であると同時に、普遍的に理解してもらえる作品であると考え、映画化を決意しました。

 

映画祭での反響・反応は?

 いろんな反応がありました。エッガーを通して、彼の生き方や哲学を教わったと言ってくれる方もいました。ただ、教育的な映画を作った考えではないですが、エッガーの人生を通して、彼の生き様、考え方などに皆さん感じていただいたようです。彼の運命が苦労を伴うものであっても愚痴ることもなく、復讐をしたり怒るわけでもなく、恨んだり皮肉を言うこともない、すべてを受け入れる行動に、そこから学べるものがあると。これは場所を問わず、上映した北京でもストックホルムでも同じ反応をいただきました。    ※パンフレットより抜粋

 

嬉しい発見!

本作で、唯一、エッガーが心の拠り所としていた老婆アーンルを演じているのは、なんと!

ミニシアター映画の金字塔『バグダッド・カフェ』で主人公ヤスミンを演じた女優、マリアンネ・ゼーゲブレヒト。

映画館で鑑賞した時は全く気づかなかったので、今回はじっくり観てみたいと思います。


 

▼上映詳細▼

場所:福岡市総合図書館 映像ホール「シネラ」

上映時間 11:00~/14:00~(115分)

料金:前売り券1,300円・当日券1,500円・シニア1,200円(当日のみ)・中高生800円

チケットぴあ(P468-393)/ローソンチケット(L-83041)

 

 mailfukuokaeisa@gmail.com (お問い合わせをいただいた場合、返信に2-3日お時間をいただく場合がございます。ご了承ください。)