2025年6月29日(日)福岡映画サークル協議会第3回例会作品

―戦後80周年平和記念企画― 

 

『長崎の郵便配達』(2021年制作/97分/ドキュメンタリー)

 

 

≪イントロダクション≫

始まりは一冊の本だった。著者は、ピーター・タウンゼンド氏。戦時中、英空軍のパイロットとして英雄となり、退官後はイギリス王室に仕え、マーガレット王女と恋に落ちるも周囲の猛反対で破局。この世紀の悲恋は世界中で話題となり、『ローマの休日』のモチーフになったともいわれています。

その後、世界を回り、ジャーナリストとなった彼が、長崎で出会ったのが、16歳で郵便配達の途中に被爆した谷口稜曄(スミテル)さんだった。生涯をかけて核廃絶を世界に訴え続けた谷口さんをタウンゼンド氏は取材し、1984年にノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を出版する。

ドキュメンタリー映画『長崎の郵便配達』は、タウンゼンド氏の娘であり、女優のイザベル・タウンゼンドさんが、父親の著書を頼りに長崎でその足跡をたどり、父と谷口さんの想いをひもといていく物語です。

2018年8月、長崎。イザベルさんは本をなぞり、時に父のボイスメモに耳を傾けながら、スミテル少年が毎日歩いた階段や神社、そして被爆した周辺などを訪ね歩く。また、長崎のお盆の伝統行事、精霊流しでは谷口さん家族と一緒に船を曳いた。旅の終わりに彼女が見る景色とは―。

 

谷口稜曄(スミテル)さん

1929年、福岡県生まれ。生まれてすぐ母親を亡くす。父親が仕事で満州に行くことになり、幼子の時に当時7歳だった姉と3歳の兄と共に長崎市の母方の実家に預けられる。1943年、国民学校を卒業。14歳で長崎市の本博多郵便局に就職し、郵便局員として働く。1945年8月9日、自転車に乗って郵便物を配達中に被爆。背中一面に大火傷を負い、長崎県の大村市などの病院で手当てを受ける。1年9カ月にわたってうつぶせのままで、退院できたのは被爆から約3年7カ月後の1949年3月。翌4月から郵便局へ復職。その後、約60年にわたり被爆者運動をけん引。

「赤い背中」の写真と共に被爆の悲惨さを国内外で語り継ぐ。訪問したのは10カ国以上。

2015年、NYの国連本部で行われた核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に合わせて渡米し、NGO主催の」国際会議でスピーチを行う。

同年8月9日に開かれた「平和記念式典」では2度目となる「平和への誓い」を読み上げた。なお、1955年に結婚、一女一男の父である。2017年8月没。享年88歳。 

 

ピーター・タウンゼンド氏

1914年11月22日、英領インド・ビルマのラングーン(現ミャンマー・ヤンゴン)生まれ。1940年、英空軍の飛行機隊長として、第二次世界大戦中の「バトル・オブ・ブリテン」で英雄的活躍をする。1944年、退官後、国王ジョージ6世の侍従武官に任命される。その娘のマーガレット王女とのロマンスが世界中で報道され、物議を醸した。

1956年、ランドローバーで世界一周の旅に出た後に、最初の著書「Earth my Friend」を執筆。2冊目の著書「Battle of Britain」は、ベストセラーとなり、現在でも歴史の参考書として使用されている。後年、作家として、戦争被害にあった子どもたちへ特別な関心を抱くようになる。来日して長崎を訪れた際に、谷口稜曄さんと出会い、取材。1984年にノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」を出版する。

 

川瀬美香監督

広告制作会社、米ブロードキャストを経て独立。仲間とART TRUE FILMを立ち上げる。

◎長編映画

「紫」(2012年/77分)

「あめつちの日々」(2015年/94分)

「長崎の郵便配達」(2021年/97分)

 

川瀬監督インタビュー 「本作を製作しようと思ったきっかけは?」

2014年に谷口稜曄さんと出会ったのが始まりです。自身の半生が描かれたピーター・タウンゼンドさんのノンフィクション小説「THE POSTMAN OF NAGASAKI」の復刊を強く望んでいる、と谷口さんの親戚でもある知人から聞きました。その理由を直接、本人に確かめたくて会いに行きました。

 

「許せないからだよ」。復刊を望む理由を尋ねると、それまで笑顔だった谷口さんは真剣な表情になり、私の顔をまっすぐ見て言いました。原爆が悲惨なことは明らかにもかかわらず、世界はまだ核を保持している。だからこの本が後世にのこっていくことが重要なのだ―と。ご自身の経緯を誰かに対して起こるわけでもなく、そう語る谷口さんに心打たれました。とはいえ、私には戦争経験がありません。映像作家の習い性で、どうしたら映画になるのか。長崎の原爆という大きなテーマを前にして勇気もアイデアも出てこなくてしばらく葛藤していました。

自分の答えが出ないまま、2015年の春、NYの国連本部で開催される「核兵器不拡散条約再検討会議」の際に谷口さんが国際会議で講演をすると聞き、同行しました。素晴らしいスピーチで会場の参加者が総立ちで拍手が鳴り止みませんでした。この光景を私は決して忘れてはいけないと強く思いました。この時に私の中で”始まった”気がします。

 


<サークルメンバーMより>

平和や戦争への関心が、年々薄れていると言われています。若い世代に語り継ぐ者が少なくなる中で、原爆、核、戦争について関心を持ってもらいたいという願いを込めて『長崎の郵便配達』を、一人でも多くの方に観ていただきたい。

劇中に出てくる「長崎原爆資料館」には、今年2月に数十年ぶりに行きました。小学生の頃の「暗い、怖い」記憶が蘇り、入口に立つと涙が出てきて、足が石のように動かず、深呼吸をして館内に入りました。原爆の悲惨さに目を覆いたくなるような写真や映像。凄惨な出来事に、改めて怒りと哀しみがわきあがりました。機会があれば、皆様もぜひ資料館へ行ってみてください。

 

■長崎原爆資料館https://nabmuseum.jp/

 


▼上映詳細▼

場所:福岡市総合図書館 映像ホール「シネラ」

上映時間 11:00~/14:00~(97分)

料金:前売り券1,300円・当日券1,500円・シニア1,200円(当日のみ)・中高生800円・障がいのある方1,000円(当日のみ)

チケットぴあ(P468-403)/ローソンチケット(L-81544)

 

 mailfukuokaeisa@gmail.com (お問い合わせをいただいた場合、返信に2-3日お時間をいただく場合がございます。ご了承ください。)